米国の強気相場だが既に割高な領域
米国株はこの2年間、物価高騰や地銀危機、経済の不透明感などで曲折をたどってきたが、2024年1月19日にS&P総合500種が過去最高値を更新して取引を終えた。米連邦準備理事会(FRB)が今年利下げに動く一方、米経済は腰折れしないとの期待が背景にある。しかし、この強気相場は既に割高な領域に達しており、今後の持続性には疑問符がつく。本記事では、米国株の現状と今後の展望について考察する。
強気相場の背景とリスク
米国株が強気相場に入ったことで、2022年10月に付けた直近安値からの上昇率が20%に達したことが確認された形だ。2022年の米国株は、物価の急上昇でFRBが利上げを迫られるとの懸念から不安定な値動きで始まり、結局一連の利上げサイクルは過去数十年でも屈指の引き締め度合いだったことが判明。米国債利回りが16年ぶりの高水準に跳ね上がり、株価を圧迫した。このためS&P総合500種は一時高値から25%も下がり、2022年10月に直近の底を記録した。
しかしそれ以降、インフレがはっきりと鈍化してきたことを示す材料が出て、FRBからもハト派的なメッセージが発信されると、株価は反転。2023年はS&P総合500種が年間で24%上昇し、今年序盤も総じて堅調となっている。
過去1年間の株高をけん引してきたのは、いわゆるマグニフィセント・セブンと呼ばれるアップル、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、エヌビディア、メタ・プラットフォームズ、テスラ、アルファベット子会社グーグルの超巨大7銘柄で、その理由はS&P総合500種におけるウエートの大きさだ。マグニフィセント・セブンの2023年上昇率はそれぞれ約50%から240%、合計時価総額はS&P総合500種の28%前後に達し、2023年の同指数の総リターンの3分の2近くをもたらした。
この2年間の市場で重要な要素になっていたのは、株価と米国債の相互作用だ。FRBが利上げを開始すると利回りが上昇し、2023年10月に16年ぶりの高水準に達した。米財政運営も巡る懸念も米国債売りに拍車をかけた。逆に最近数カ月は、今年の利下げ観測が利回りを押し下げ、2023年10月時点で5%を上回っていた10年債利回りは4.2%前後に落ち着いている。もっとも足元では、FRBがどこまで積極的に利下げするか疑念が生じた結果、利回りは幾分上がってきた。
株価を動かしているもう一つの大事な要素は、これまでの利上げが功を奏してインフレが鈍化しつつも、経済成長はさほど痛手を受けないという、いわゆるソフトランディング到来への期待感だ。今のところ米経済は底堅さを示し、小売売上高や消費者信頼感などはしっかりしている。他方で生産者物価などは減速基調となり、シティグループが算出しているエコノミック・サプライズ指数は今年初め、2023年5月以降で初めて実際のデータが予想を下回ることを意味するマイナスに転じた。
プリンシパル・アセット・マネジメントのチーフ・グローバル・ストラテジスト、シーマ・シャー氏は、金融政策運営の先行きに難しさがあるのは確かだが「FRBは景気後退を引き起こさずに物価上昇率を目標に戻せる確固としたチャンスを手にしている」と述べた。
割高な米国株の今後の展望
米国株の史上最高値更新が現実味を帯びる中、BMOキャピタル・マーケッツとドイツ銀行は2024年内の景気後退入りを予測しており、それがなぜか強気相場と「共存」する可能性について、それぞれの見通しを発表している。BMOキャピタル・マーケッツは、S&P総合500種が12カ月後に「最低11%、最大31%」上昇すると予測している。ドイツ銀行は、S&P総合500種が2024年末までに12%上昇すると予測している。
米国株の割高さを評価する指標
米国株の割高さを評価する指標として、予想利益に基づく株価収益率(PER)のほかに、シラーPERやCAPE(調整後PER)などがよく用いられます。シラーPERは、10年間の平均実質利益に基づくPERで、CAPEはインフレ率で調整したPERです。これらの指標は、PERよりも長期的な視点で株価の割高さを判断するのに適しています。現在のシラーPERは約36倍、CAPEは約38倍と、過去の平均値(約17倍)や中央値(約16倍)を大きく上回っています。これらの指標からも、米国株は歴史的に見て割高な水準にあると言えます。
米国株の割高さを正当化する要因
しかし、米国株の割高さを正当化する要因もあります。まず、金利水準が低いことが挙げられます。金利が低いと、将来の利益の現在価値が高くなり、株価が上昇します。また、金利が低いと、債券などの代替投資の魅力が低下し、株式への資金流入が促されます。現在の米国の10年債利回りは約1.8%と、歴史的に見て低い水準にあります。FRBが今年利下げに動く可能性が高いとの見方もあり、金利水準が低い状況はしばらく続くと予想されます。
次に、米国ハイテク株の業績が好調であることが挙げられます。マグニフィセント・セブンの2023年の売上高は約1兆6000億ドルで、前年比で約20%増加しました。利益率も高く、純利益は約3,000億ドルに達しました。これらの企業は、デジタルトランスフォーメーション(DX)やメタバースなどの新たな市場の創出や拡大に貢献しており、今後も成長が続くと期待されています。これらの企業の株価上昇は、その業績に見合ったものと言えるかもしれません。
米国株の割高さに対する懸念
一方で、米国株の割高さに対する懸念もあります。まず、インフレ圧力が高まることが挙げられます。2023年12月の米国のコアCPIは前年比で7%と、1982年以来の高水準に達しました。インフレが高いと、企業の利益率が低下し、株価に悪影響を与えます。また、インフレが高いと、FRBが利上げを早める可能性が高まり、金利が上昇して株価に圧力をかけます。FRBは、2024年に3回の利上げを行うとの見通しを示していますが、市場ではそれ以上の利上げを織り込んでいます。
次に、地政学的なリスクが高まることが挙げられます。米国と中国の関係は、台湾問題やウイグル人権問題、香港問題などで緊張が高まっています。両国は経済的にも相互依存しており、貿易戦争や軍事衝突は両国にとっても不利益ですが、予期せぬ事態が発生する可能性はゼロではありません。また、ロシアとウクライナの間でも、ロシアのウクライナ侵攻の危機が高まっています。これらの地政学的なリスクが現実化すれば、世界経済に深刻な影響を及ぼし、株価にも打撃を与えるでしょう。
まとめ
米国株はこの2年間、物価高騰や地銀危機、経済の不透明感などで曲折をたどってきましたが、2024年1月19日にS&P総合500種が過去最高値を更新して取引を終えました。米国株の強気相場は、FRBの利下げ観測や米経済のソフトランディングへの期待、ハイテク株の業績好調などに支えられています。しかし、この強気相場は既に割高な領域に達しており、インフレ圧力や地政学的なリスクなどの懸念材料もあります。今後の米国株の動向には、金利水準やインフレ率、FRBの金融政策、地政学的な状況などに注意が必要です。
米国株、やっぱり変です。